エッセイ

ナリヒラシジミ

大山 桂

明治から大正に掛けての平瀬与一郎・岩川友太郎両先生の時代に尾張産の巨大なマシジミをCorbicula orthodonta  Pilsbry,1907、の名で呼ばれ、和名はナリヒラシジミともオグラシジミとも言った。後(黒田、1938)マシジミCorbicula  leana Prime,1864、の一つの型と認められるに至った。ナリヒラシジミとは在原業平が京都で問題を起こして東国に逃げたとき、今の愛知県でかきつばたの花を見て57577の頭に、かきつばたを折り込んで、から衣 きつつなれにし つましあれば はるばる来つる たびをぞしのぶの歌を作って感慨に耽った故事から、業平(なりひら)を連想して命名したものと思われる。
 マシジミはハマグリ形ないし楕円形になるが、側歯が長くて大成しハマグリ形になる型は一見楕円形になる貝と別の物に見える。この型をナリヒラシジミと言って昔は区別した。戦前には東京都内(常磐線金町駅近くの水郷)でも30ミリくらいのは採れた。
 今年(*)の3月11日付けの朝日新聞の東海総合版に豊橋市嵩山町の農業用水のため池に最大56.6ミリもある大きなシジミが小さいのに混じって発見されたのを読んだ。ナリヒラシジミ型の巨大なマシジミは、一般に大きくならないうちに採ってしまうから、近年ではほとんど姿を消したもので、たまたま採取されずしかも栄養が良かったため大成したものと思われる。ナリヒラシジミ型のマシジミにしても、56.6ミリは記録に残る大きさである。

(*)94年の事