短報 103 エビ網 磯和 誠 毎年10月1日はエビ網漁の解禁日である。数日前から漁師は網の手入れに余念がない。もちろん、 それ以外の時期には一本釣りとか他の漁をしているわけだがこの日から約半年間はエビ網漁に専念する ことになる。最近は漁師も休みが増えて満月を中心に5日間、それに毎週土曜日は公休日である。サラ リーマン並の休みがあるのだ。一本釣り漁師はさらに休みが多い。きつい仕事だけに後を次ぐ人が減っ てきているための対策だ。 漁法はどこもそれほど変わらないだろうが、しきたりなどは地方によって違いがある。ここでの話は 三重県志摩半島の和具という漁村のことである。 午後3時になると38隻の漁船が港を出て整列する。船が出そろうとおもむろにサイレンがけたたま しく進軍ラッパのように鳴り響く。この光景は見物である。一列に並んだ船が一目散にそれぞれ目安を 付けた漁場に突進するのだ。公平を期すために同時にスタートして場所取りをする。しかし、船には新 しいのや古いの、あるいは大きさで性能は違うからスピードも違う。操縦の腕前の違いもあるだろう。 みるみる差が開き速い船はすぐに沖合に姿を消すのだ。見ているとぐずぐずしている船もある。だが、 考えがあるのかもしれない。別に一カ所を目指すわけではないから扇形に広がっていくので美しい。こ の騒ぎは30分もすれば落ち着き静かな海に戻る。これが毎日のように繰り返されるのだ。なぜ早い者 勝ちかというと、それぞれの家によって設備投資の金額が違うために輪番制ではかえって不公平になる ためである。 網を仕掛けて漁師は港にそれぞれ戻る。4時過ぎから次々と戻ってくる船は夕日に照らされて美しい。 防波堤から見ると各船のようすが良くわかる。もっとも網を下ろす作業は2〜3人で半時間ほどで終わ る。漁場は沖に向かって10分ほど走った場所である。魚群探知機などを使用して海底の様子を探りな がらエビと魚と両方獲れる網を仕掛ける。 あまり深いとエビはいないので水深は10mから60mの間である。 こうして一晩、網は伊勢エビを誘い込む。 漁師は早起きなので8時には床につく。深夜テレビとは無縁の人たちだ。もっとも録画して見る人もい るかも知れないが。 翌朝4時過ぎに起き出す。船が港を出るのは5時である。早朝からすさまじいエン ジン音があたりに響きわたる。漁村は犬を飼う家が多く、連鎖反応をおこして犬達が吠える。この犬達は 宵の口にも吠えるので昼間はおとなしい。 早い船は6時半過ぎには帰ってきて網を下ろし始める。女性陣がリヤカーに網を載せて網干し場に行っ て掛ける。和具では西の浜と東の浜に分かれて作業するが東の浜は何軒か廃業したので4件という寂しさ である。西の浜というのは正確には市場周辺のことである。ここはところ狭しと網が掛けられている。網 干し場は現在東の浜のみが輪番制である。家族だけでは人手が足りないのでおばさん(おばあさん)を雇 って網をさばいてもらう。アルバイト代は現金でなくその日網に掛かった魚である。だから、特別寒い日 や魚が少ないときは気の毒だという。 網干し場は元来県の所有地であるが、先祖代々小屋を建てたりして勝手に使用している。そのあたりが どうなっているかは本人達も知らない。 エビ網漁が始まったすぐには和具沖でなく御座と越賀という隣村の方に網を掛けるが、それは最初だけ ですぐに和具沖に場所を移動する。水深もその家の判断でやるから面倒だったら浅いところに仕掛ける。 他の家が30m以深に仕掛けても10mくらいで帰って来る家もある。だから、貝を拾う時にはその家の 人に水深を尋ねてみると良い。 いわゆる商品になるエビや魚貝以外のものはゴミである。まとめて捨てられるのだが、この中に私たち が探している貝が入っている。漁師に断ってゴミを全部引き受けるもよし、こまかく隅々まで回って漁師 にサザエを貰うもよしであるが、ゴミ捨て場にいつまでもしゃがんで掘り返すのは迷惑なので止めた方が いい。小エビやカニを集めている人もいて漁師も目立つのか、こんなのがあったよと言ってくれるがさす がに貝は目立たないせいか興味も薄いようだ。 8時にはたいがい終わってしまうので貝を拾いたい場合はもっと早く行かなくてはならない。ちなみに ゴミは収集車が集めに来る。 この漁は来年5月まで続く。 |