研究報告 Research reports


伊勢湾周辺における海棲哺乳類のストランディングと水族館の活動
Marine mammal strandings around Ise Bay and general consideration on activities of Aquarium

鳥羽水族館 古田正美
TOBA AQUARIUM Furuta M.

Abstract

During the last years since Toba Aquqrium was established, in addition to exhibiting animals we keep, have tried to collect records and specimens of stranded, incidentally caught and strayed marine mammals in Mie prefecture, especially arounded Ise Bay. Our activities include medical care for live strandings and various specimen and data collection from dead strandings. Intervention of aquarium between citizens and management or academic authorities is anticipated for better communication and effective response.
During the period between 1956 and 1997, 17 cetacean species (3 mysticetes and 17 odontocete) and 4 pinniped species were recognized around Ise Bay.
Stranded species are:
Sperm whale, melon-headed whale, rough toothed dolphin, Pacific white sided dolphin, striped dolphin and finless porpoise.
Stellar sea lion, furseal and spotted seal.
Individual strayed into bay
Gray whale, Kogid whale, rough toothed dolphin, Dall's porpoise, Risso's dolphin and finless porpoise.
Furseal and spotted seal.
There were cases with large pod of false killer whale and bottlenose dolphin or killer whale.

key words: marine mannmals, stranding, straying, Ise Bay

三重県沿岸は本州の中央に位置し、伊勢湾及び太平洋に面した南北に長い930kmの海岸線を有している。したがって、内湾性の強いスナメリや外洋性鯨類及び北方系の鰭脚類の座礁、漂着、迷入がみられる。
 鳥羽水族館では水産庁遠洋水産研究所、三重大学及び南知多ビ−チランドと共同で1991年から94年にかけライントランセクト法による伊勢湾内に生息するスナメリの生息数及び分布と季節変動を目的とした船舶による目視調査をおこない。その結果伊勢湾に周年生息している海棲哺乳類は表面水温6〜28℃と水温耐性の強いスナメリのみであることが確認されている。

 したがって、伊勢湾沿岸に漂着するのはスナメリが殆どであり、他の鯨類や鰭脚類の迷入や座礁は極めてまれである。  当館は創立して42年経つが、飼育展示のみならず三重県下、特に伊勢湾周辺海域において漂着、混獲、迷入の海棲哺乳類について可能な限り、記録及び標本の収集と保護をおこなってきた。また、入り江等への迷入個体についてはできる限りその動物の自力脱出を試みると同時に地元漁師には捕獲しないようその都度啓蒙と助言をおこなっている。  保護が必要な生存個体については水族館へ収容し治療にあたってきた。 これまで、当館が扱った海棲哺乳類(Table.1)について報告する。

 

CetaceaPinnipedia

Stranding6species3species

Lost Animals

7spacies

2species

Table.1

材料と収集方法
 1956年〜1997年10月までに記録された鯨類17種、鰭足類4種を確認し、座礁、漂着及び迷入した個体を記録、計測とサンプル収集にあたった。
 迷入個体については写真やビデオ撮影をおこない種の同定、場所と日時の記録にとどめた。
 材料収集には鳥羽水族館職員の海岸線での発見もあるが、殆どが各方面からの情報であり漁民、市民、マスコミ、警察及び地方自治体からの迷入や漂着情報が多い。特に、スナメリについては伊勢湾内で操業する漁師や漁業協同組合へお願いし情報収集や材料を集めた。

結果
三重県沿岸に出現した海棲哺乳類は鯨類17種で、ヒゲクジラ類が3種、ハクジラ類が14種であった。また鰭脚類は4種であった。これら全てが漂着及び迷入した訳ではなく、漂着及び座礁地点と種はFig.1に示した。
漂着はマッコウクジラPhyseter catodon、カズハゴンドウPeponocephala electra、シワハイルカSteno bredanensis、カマイルカLagenorhynchus obliquidens、スジイルカStenella coeruleoalba、スナメリNeophocaena phocaenoides、トドEumetopias jubatus、オットセイCallorhinus ursinus、ゴマフアザラシPhoca larghaであった。迷入種はコククジラEschrichtius robustus、コマッコウの1種Kogia sp.、シワハイルカ、イシイルカPhocaenoides dalli、ハナゴンドウGrampus griseus、スナメリ、オットセイ、ゴマフアザラシであった(古田,1994,未発表;東川他,1980;冨田,1979;塚田,1984;若林,1990)。


Fig.1

 1982年3月27日のコククジラの伊勢湾内迷入については特異的な事例で、鳥羽湾内の狭い海域で発見され、その後数時間後に伊勢湾に入り約2ヶ月間津市伊倉津沿岸に留まった後、5月末に伊勢湾から出ていった(Furuta,1984)。
 当然のことではあるが、過去5年間をみても最も多く漂着がみられたのは伊勢湾に周年生息するスナメリの18頭であった。月別では4月に1頭、5月に6頭、6月に5頭、7月に3頭、8月に1頭、9月に2頭と春から初秋にみられた。湾内漂着はスナメリとゴマフアザラシのみで他種は全て太平洋に面した漁港や湾であった。
 また、迷入にすべきか問題はあるが、餌を追ってオキゴンドウとハンドウイルカの混泳群が伊勢湾に来遊した記録もある、また過去2回シャチが湾内に入った記録もあるが座礁、漂着の記録はない。
 スナメリの迷入は愛知県の河川への記録はあるが、三重県にはない、また英虞湾ではこれまで1頭の記録があるが生息は確認されていない。


コククジラ:1982,鳥羽

マッコウクジラ:1993,相差

ゴマフアザラシ:1996,和具


考察
 鳥羽水族館をはじめ多くの園館では生存個体の救助あるいは、死亡個体の回収作業をはじめ、さまざまな活動をおこなってきている。今後もこのような活動を継続していくことは博物館相当施設として当然のことであり、市民と自治体あるいは研究機関に介在する存在として、より積極的に関与していくことが大切である。各園館で実行できる可能性があるのは、生存個体の救助のさいには飼育個体における臨床経験の活用や飼育設備の提供などである。死亡個体の調査では、現地での生物学的デ−タの収集や組織のサンプリング及び死体回収作業の指導などである。問題は、人員の派遣や機材類の経費、或いは限られた水槽スペ−スの中での治療・リハビリテ−ションの負担などで、各園館の経営状況を圧迫しかねないこれらの活動の意義をどの様に認識し、いかに社会に周知していくかということである。
 生存個体につてリハビリテ−ションとリリ−スが成功した例はオットセイの1個体のみであるが、収容し治療にあたる以前から、地方自治体と事前協議をおこないリリ−スの方法と船舶の確保をおこなっていないとスム−ズな自然への復帰はおこなえない。
 また、英虞湾ではスナメリの生息は確認されていないが、過去に1頭の迷入があり、水族館に収容し長期飼育の例がある。伊勢湾・三河湾に生息するスナメリは大王崎を越えて南下することは極希なように思われる。また、伊勢湾の三重県側でのスナメリ漂着は4月〜9月でその殆どが5月と6月に集中していることは努力量の問題もあるが、死亡漂流している個体が季節風により三重県沿岸に漂着するものと考えられる。
 一方、迷入個体についてはメディアの報道も力強く、漁民の捕獲や市民のいたずらから迷入個体をまもる手段となり、警察や地方自治体の力と合わせ考えるべきである。しかしながら、ゴマフアザラシの座礁例では既に出血は止まっていたがスクリュウプロペラで傷をうけており、地元の動物病院にて麻酔後縫合の治療を受けたため保護収容する前に死亡した例もあり、麻酔薬の使用例による死亡と云う、市民感情に流されたマスコミや警察の判断がアザラシを死に至らしめた例もあり注意すべきである。
 これまでは外部計測や胃内容物、頭骨等の採集のみであったが近年になりDNAによる系群解析や重金属類等汚染物質の体内取り込み等の研究目的としたストランディングした個体の収集に力をそそぎ大学や研究機関との連絡を重視しながら調査すべきと考える。
 しかしながら、伊勢湾はスナメリの重要な生息地であり、漂着種はスナメリが大多数を占めるが、水産資源保護法により保護されているため、農林水産大臣の許可が下りるまで、冷凍庫保管が義務づけられており、羅網した死亡個体から新鮮な組織を得ることが困難な状況下にある。地元の調査機関には事後報告のかたちの許可が頂きたいものである。
 最後に、本報告はあくまで三重県沿岸のものであり、伊勢湾は愛知県に挟まれ、また隣接する三河湾は愛知県にあり同系群であるスナメリは南知多ビ−チランドの調査と合わせて一つの報告になるものである。

謝辞
ストランディングシンポジウムの開催と発表の機会を与えていただいた国立科学博物館の山田格博士及び東京大学海洋研究所の天野雅雄博士に対し深謝すると共に、資料収集に協力を頂いた鳥羽水族館飼育研究部員に対し感謝致します。

参考文献
Furuta,M.1984.Note on a Gray whale found in the Ise Bay on Pacific coast of Japan. Sci. Rep. Whales Res. Inst.:35, 195-197
古田正美.1994.三重の生物 日本生物教育会第49回全国大会三重大会 記念誌 三重生物教育会pp.289−292
東川俊一・北村秀策・元村良雄・山本清・片岡照男.1980.三重県産のイルカ類について、三重生物、16,:49−52
冨田靖男.1979.三重県の哺乳類,三重県立博物館報告,自然科学1,:58−60
塚田修.1984.1984年に三重県で記録された北方系生物,三重動物学会会報7,:57−59
若林郁夫.1990.三重県周辺で確認された海産哺乳類,三重動物学会会報13,:42−52

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